秋田こまっち。

秋田の方言メモ 第4話〜第6話

第4話.まず

 深夜と今朝と夕方の3回にわたって強い地震を感じました。特に、今朝の地震は宮城県北地方で震度6強というすさまじいものだったそうです。ここ3、4日の間雨が断続的に降り続いているので、私が住んでいる所も山がちなところですから土砂災害が心配です。でも5月頃にあった地震よりは若干揺れが小さかった様に思います。部屋がゆれただけですし。(でも余震の数が多いでしょうか?)あのときは部屋の本棚からものが落ちてきたり、トイレで芳香剤が倒れてしばらくトイレは強烈なラベンダーの香りがしていましたし、そのとき一緒に部屋にいたIくんは「やばいって、やばいって!」と言って、靴下のまま外に飛び出していく有様でした。足元が危ないのでそっちの方がやばいって(笑)今となってはいい思い出です。

 そういうときはやはり家族から電話がかかってきて、本格的な秋田弁が聞けるというものです。「あや、どでんしたで。そっちなばなんじだった?おらほなばよ、おめの部屋の本棚がら本どだどだって落ちてきたっけ。まず、どでんした」(標準語訳は「あー、びっくりした。そっちはどうだった?こっちはね、お前の部屋の本棚から本がどさどさって落ちてきたよ。かなり、びっくりした」)と早口でまくしたてるのです。これに秋田弁特有のアクセントが加わるので、秋田弁を知らない人にとってはやはり外国語の世界になってしまうでしょう。

 こうして文章にして考えてみますと面白いことに気づきました。第3話でも話をした、標準語にも単語はあるが標準語とは異なる用法があるというものです。それは「まず」(または「まんず」とも言います)という単語です。部屋にある電子辞書(広辞苑)で調べてみました。

まず【先ず】  (副詞)
・最初に。まっさきに。「――母に知らせる」
・何はともあれ。ともかく。「――ひと安心」
・おおよそ。だいたい。多分。「――間違いは無い」

 このように書かれてあります。じゃあ電話での私の母のセリフの「まず」はどういう意味だったのでしょうか。こういうところで私の理系脳みそはうまく機能してくれませんが、秋田弁を話す者の感覚としてはこの3つのいずれにも該当しないように思います。「かなり」「とても」などの強調の意味のつもりで言ったと思います。

 ここで私が提言したいことは、秋田弁の「まず」は意味が標準語の「まず」よりも多いのではないかということです。もう少し考えてみますと、私は今でも友達などと別れるときに「じゃあ、まずね」などと平気で言ったりしています。標準語に直すと「じゃあ、またね」とか、「じゃあ、バイバイ」とか、「じゃあ、よろしく」といった感覚です。しっくりくる表現を思いつきました。「じゃあ、まずね」=「じゃあ、どうも」です。よく思いついたものですね、この脳が。あと私は小さい頃こう言われて育ちました。「このわらしなば、まずゆうごどきがね」と。(標準語訳は「この子供は、全然言うことを聞かない」)まだまだあります。そんな子供だったのでこうも言われました。「何やってけちあがるんだ!まず、このわらしは!」と。(標準語訳は「なにやってくれるんだ!一体、このガキは!」)

 しばらく考えてみましたが、この脳ですからこれ以上は思い浮かびませんでした。でもとりあえず秋田弁の「まず」について私なりに定義してみたいと思います。

まず【先ず】  (副詞?)
・最初に。まっさきに。「――母に知らせる」
・何はともあれ。ともかく。「――ひと安心」
・おおよそ。だいたい。多分。「――間違いは無い」
・(否定語を後ろに伴って)全然。全く。「――言うことを聞かない」
・かなり。とても。「――びっくりした」
・一体。本当に。「――なんてことをしてくれたんだ」
・どうも。「じゃあ、――ね」

 今回の話は自分では満足のいく出来栄えですが、不足している部分があるかもしれません。いや、多分不足しているでしょう。ご意見などありましたらよろしくお願いします。最後に一言。秋田弁を話す人は「まず」と挨拶されると、まず笑顔になってしまいますね。近くの秋田出身の人に試してみて下さい。

 「まず」(または「まんず」)=意味が多いので本文をご覧下さい

 03.07.**

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第5話.腹わり

 突然ですが今日警察の方々にお世話になりました。指紋も採られました。指定場所一時不停止、と手元にある水色の紙に書かれてあります。もう一方の紙には、金額5000円と書かれてあります。マジでムカつきます。でも明らかにスピードオーバーだったので、それだけですんだことはラッキーとも考えられます。「5000円だよ!」と警官に言われたときは、最高に怖い顔をして「は?」という感じで睨みつけました。するとけっこう体格のいい強面の警官が目をそらしながら、「5000円はいたいねー」と言ってきました。そりゃいたいよ。だってバイトの半日分。取調べには素直に応じましたが、こうでもしないと気がすみませんでした。でも目をそらしてくれたので「勝った」という気持ちになり、幾分内に秘めた怒りもやわらぎました。まあ「目をそらすとこいつの怒りも静まるだろう」と考えた上でのパフォーマンスだったとしたら、相手の方が一枚上手だったでしょうけどね。

 さて、秋田弁では怒ったり、不快感を表現するときに、「腹わり」や「好きでね」としばしば言います。この2つは秋田弁を知らない人にとっては意味の勘違いをしやすい単語といえます。「腹わり」と言っている人は決してお腹の調子が悪いのではありませんし、「好きでね」は「好きではない」というように「好き」という単語を否定しているというニュアンスでもないのです。ただしこれらの単語を口にする秋田県民は、程度の差こそあれ不快感を持っていることは間違いありません。そんなときに意味の勘違いをしたら取り返しのつかないことになってしまうはず。

 「腹わり」=「ムカつく」、そして「好きでね」=「ムカつく、嫌い」という意味です。「そんたごどされれば腹わり」という文を標準語に直すと、「そんなことされると本当にムカつく」となります。また「俺、アイツのごど好きでね」という文を標準語に直すと、「俺、アイツのこと嫌い」となります。怒りの度合は「腹わり」>「好きでね」となるでしょうか。

 これらの単語をしゃべる秋田県民にご注意下さい。

 「腹わり」=腹が立つ。ムカつく。
 「好きでね」=腹が立つ。ムカつく。嫌い。

 03.07.**

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第6話.違和感

 今、数ヶ月前のことを思い返してこの文章を書いています。私はいつもは帰省するときに高速バスを利用するのですが、正月の帰省のときに秋田新幹線「こまち」を久しぶりに利用しました。バスと比べて料金が高い上に、盛岡経由のため遠回りとなってしまい好んでは使いません。ですが父が、「雪だのなんだのってうまぐねごとあるがらよ。じぇんこなんていがら、スィンカンセンでこいばいべ」(標準語訳は「雪やら何やらですんなりいかないことがあるので、お金なんていいから新幹線でくればいいよ」)と言っていたので、「なるほど、おっちょこちょいな私には考え付かなかった発想だ」と感心しながら「こまち」を使うことにしたのです。

 いやぁ、なんだかしっくりきます、「こまち」は。秋田弁のアナウンスといい(「ゴンじょうしゃのスィンカンセンはコマツィ3ゴ、アツィタユギディス」といった感じの発音)、車掌に問いただす客(秋田新幹線は盛岡以降は在来線の線路を走るのでスピードががくんと落ちますが、そのことを知らず車掌に何かあったのかと問いただす観光客が結構います)といい、実に数年間全く変わらない感じがします。新幹線の中では基本的に暇なので、窓から外の景色を眺めたり……、何となくぼぉーっと考え事をしてみたり……、初めて仙台駅に到着したときのことを思い返してみたり……。

 なんて一見ノスタルジックな雰囲気にひたるようで、何か面白いことを探しているのが私なのです。何か面白いこと無いかなと思いながら自分の故郷に近づいて来ると、なぜか妙な違和感に襲われるのです。「こんな町だっけ?」って具合です。親に「こんな町だっけ?」って話しても、「ばががおめは。わげわがらねっちゅの」(標準語訳は「バカ?あんたは。訳が分からないって」)と言われて、はい終了。自分の部屋に着いても分かりません。全く。

 ある日ふと気づきました。秋田弁を話せないことがもどかしいというか、苦痛というか、話している自分が自分であって自分でないように感じるというか……。結局秋田弁は私の要素だったのです。そう悟った私にはもう社会通念は通用しません。私にとっては最高レベルの癒しです。だからこうして秋田弁についてのエッセイをせっせと書いているわけです。

 その次の日。今年の正月は数年ぶりに積雪0cmという異常気象で、冬なのに地面が見えます。積雪無しなら私のドライブはOKなので、車でどこかに出かけることにしました。車が無いとどこにも行けないのが田舎の特徴です。一番近いコンビニまでは5km以上はあり、コンビニには車で出かけます。(こんな秋田の事情を笑ってくれるのが第4話に登場した東京出身のIくんです)車に乗って出かけているとだんだんと違和感の正体が分かってきました。さて私の違和感は何だったのでしょうか?ミニクイズはどうでもいい(初対面で「俺って血液型何型だと思う?」とか言う人いませんか?そんなミニクイズはいいかげんにやめ〜ぃ)ので、正解を発表します。

 信号です。勘のいい方は既にお分かりだったと思いますが、仙台と秋田県では信号が違うんですね。

 仙台の信号(横タイプ)
 秋田の信号(縦タイプ)

 ではなぜこのようになっているのでしょうか?ミニクイズはやはり止めて、ぐぐってみました。画像があって分かりやすいです。(関連リンクMishizawaメイン)「雪」に関係しているんですね。横型だと信号機の広い面積に雪が積もるのに対し、縦型だと信号機の比較的狭い面積にしか雪が積もりません。すると冬でも見やすさが増し、信号機からの落雪も少なくなるみたいです。あと雪が全くといっていいほど降らない地方でも、道路などが狭かったり、信号機を設置するスペースがあまりない場合は設置する場合があるそうです。

 なかなか興味深いことが分かって面白かったです。秋田県に限らず、北海道や東北、北陸などの雪の降る地方には縦タイプの信号機が広く分布しているみたいなので、自分の地方と違う信号機ばかりの所を車でドライブするのも面白いかもしれません。

 04.05.14

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