秋田こまっち。

秋田の方言メモ 第7話〜第9話

第7話.気づいてください

 最近、秋田県が密かに注目されています。(本当に密かですし、私が秋田バカであることも考慮に入れてください)少し前に「ザ・ワイド」(日テレ)で、角館町が「たそがれ清兵衛」(アカデミー賞にノミネートした映画)のロケ地になり、観光客が大幅に増加したという内容が放送されました。また他にも「うたばん」(TBS)でとんねるず石橋が、「この前秋田の温泉に行ってきたんだよ〜」という話をしていました。(「乳頭温泉」というネタで笑いをとっていました)いいですね。私はごみごみしたところよりも落ち着ける場所が好きなもので。そのうちまた行きたいです。

 さて、秋田に観光に来た方はどのくらいいるのでしょうか。ちょっと数人の知り合いの方々(主婦)にたずねてみたところ、

・S藤さん「無いですね〜。秋田には。岩手にはあるんですけど……」
・A山さん「行ってみたいですね〜」
・O笠原さん「う〜ん。青森に行くときに通ったかな〜」(関連リンクJH日本道路公団

 そうですか、そうですか。S藤さんは直接否定。A山さんは間接否定。O笠原さんは通過のみ。要するに秋田には行ったことが無いと。現実はほろ苦いです。

 それもそのはず、こちらに来て分かったのですが、私は秋田県は宮城県の隣であると思っていました。ですが、宮城県の人はどうやらそう思っていないみたいです。例として「天気予報」が挙げられます。秋田では「お隣の県の天気予報」といった感じのコーナーで宮城県を必ず紹介しますが、宮城県では秋田県を紹介しません。宮城県では岩手、山形、福島のみを紹介します。

 おいおい、接してるYO!秋田と宮城は!(関連リンクYahoo!地図情報)そんなことされると宮城県民は勘違いするYO!秋田は宮城に片思い……。なんだか女の子にふられたみたいです。私の思いに宮城県民のうち1人でもいいから気づいてください。お願いします。繰り返しますが、秋田は宮城の隣です!

 04.05.15

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第8話.まがす

 私は1人暮らしなので、昼食はよく大学内の食堂で食べています。大学の食堂は基本的に安いですからいいですね。昼時になると人が溢れかえっていて、田舎者の私にはキツイです。狭い廊下を縫うように歩き、死に物狂いで空いた席を探し、ようやくたどり着いたがバッグで席をキープされていたり……。(多少誇張気味ですが)

 そんな時にはどこかにぶつかってしまうことが結構あります。こぼさないように、こぼさないように…と考えながら(実際には私の頭では、まがさないように、まがさないように…と考えています)席につきます。席について食べ始めてから、緊張の糸が途切れるのかよくお茶をこぼすんですよ。余談ですが、緊張の糸が途切れるというのはよくある話で、自宅周辺で事故に遭遇する人は多いみたいですね。そこで、こぼしたときに「あっ、まかしちゃった」と言ったところ、東京出身のIくんに「は?」と言われてしまったことがありました。「まかす」って秋田弁だったんですね。去年、初めて知りました。秋田の発音は「まがす」だから「まかす」と言おうと、脳内で秋田弁→標準語の変換をしたつもりだったのですが。

 その後数ヶ月が過ぎ、またこぼしました。その時、以前「まがす」の説明をしたのを憶えていてくれたIくんが「あっ、まかした」と言ってくれました。その時、ふと気づきました。「まがす」は「こぼす」と同じ意味ではないことに。

 まず、こぼすとはどういう意味か調べてみました。(関連リンクExcite エキサイト 辞書:国語辞典

こぼす 【零す/溢す】
・不注意から器を傾けたりして、中の液体・粉末・粒状の物を外に出してしまう。「コーヒーを――・した」「砂糖を――・す」「球をミットから――・す」
・容器内の液体や粉末などを外に出して捨てる。「茶わんをすすいだ水を建水に――・す」
・(涙などを)こらえ切れずに落とす。「大粒の涙を――・す」「よだれを――・しそうになる」
・不平・愚痴などを言う。ぼやく。「愚痴を――・してばかりいる」
・うれしさなどを表情に表す。「思わず笑みを――・す」
・すき間から外にはみ出るようにする。「色々の衣ども――・し出でたる人の/枕草子」

 「まがす」には3番目以降の用法は全く無いです。2番目も当てはまらないような気がします。秋田県民は不自然さにほくそえんでしまいますが、1番目で、「球をミットからまがす」とは使えません。「まがす」ってかなり限定された意味みたいですね。ここで私の理系脳みその出番です。「まがす」の意味を考えてみます。

・故意ではなく、過失。
 わざとこぼすことは「まがす」になりえません。なんとなくそう感じます。
・容器が倒れないといけない。
 容器は倒れないといけません。これは確実。なぜなら、この違和感に気づいたからこの話が始まったようなものですからね。Iくんが「まかした」と言ったのですが、容器をひっくり返したのではなく、容器を置いた衝撃で容器からお茶が溢れたのです。この場合は秋田弁では「溢れらがす」という別の単語を使います。文字通り「溢れる」という意味です。
・倒れる角度が90度。
 細かいですが、90度です。180度(つまり、ひっくり返ること)では「かっちゃまにする」や「きゃす」「とっくりぎゃす」などの他の秋田弁に当てはまります。「かっちゃまにする」は「逆さまにする」、他の2つは「ひっくり返す」といった意味になります。
・容器の口が広くなくてはいけない。
 容器の口はある程度の大きさでなくてはなりません。ペットボトルなどはギリギリOKです。ですが、コンビニなどで売っているストローを差し込むタイプの飲み物がいくら倒れてこぼれたからといって「まがす」には該当しません。
・容器の大きさには範囲がある。
 おちょこの大きさくらいから、せいぜいバケツくらいの大きさまでですね。それ以上に大きいものが倒れたときは「まがす」とはいいません。 ・倒れた後に容器の中身が広がらなくてはいけない。
 これがポイント!倒れた後には容器から、まるで道路の水溜りのように、ある程度の面積に広がる必要があります。「こぼす」の1番目の説明に「砂糖をまがす」とは言えますので、液体に限らず粉状の固体でもかまいません。ただし、一口大のゼリーなんかをぽろっとこぼしてしまった場合は、広がらないので「まがす」には当てはまりません。「おどす」(標準語では「落とす」)という言葉で表現されます。

 「まがす」の意味はまとめると、「過失により比較的小さめで、かつ口が広い容器を90度に倒してしまい、中身の粉状固体、あるいは液体がこぼれて広がる」ことになります。第4話の「まず」と違い、このようにかなり限定された意味を持つ秋田弁もあるわけですね。他の人に物事を伝えるときに言葉足らずにならないところがいいですね。例えば「コップの水をこぼす」では、上記のように溢れたのか、倒してしまいこぼれたのか判然としません。ですが、「コップの水をまがす」でははっきりと意味が伝わります。

 「量が少ない場合にも使いにくいような気がします。ほとんど飲みきった湯のみ茶碗を倒して、お茶がほんのちょっと出てきたときとか。内容が広がる、ということと一体の現象だと思いますが、そういう意味では、『まがす』は割と緊急度が高い語のようです」とのご意見をSigma-Sectionの管理人さんであるshunoさんから頂きました。非常に参考になる意見ですので、追加します。

 確かに、量が少ない場合は「たらす」を使ったほうがしっくりきます。あと、「緊急度」という点では、「まがす」の1番目の説明にある「故意ではなく過失」と書いた内容に近いかと思います。「故意ではなく過失」→「緊急度が高い」という風に表すこともできるでしょう。むしろその方が正しいかもしれません。なんとも表現しにくいところです。「まがす」ことによる心の焦りさえも「まがす」の要素になってさえいる、といったところでしょうか。今、目の前で起こった現象をどう捉えるか、「まがす」という言葉を選択すべきか、それともそれ以外の言葉を選択するべきかというところに、「心の焦り」が深く関わっているのでしょう。感覚的なので難しいですね。

 「まがす」=「過失により比較的小さめで、かつ口が広い容器を90度に倒してしまい、中身の粉状固体、あるいは液体がこぼれて広がる」こと。

 04.05.20

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第9話.発音

 本来この話はもっと先にしておくべきものだったとちょっと後悔していますが、なるべく早いうちにしておきます。秋田弁の発音についてです。なんとか頑張っていますが、はっきり言って標準語では表記できません。

 まず、50音の中にも発音が違うものもあります。例を挙げると「」です。標準語だと「き」です。ですが、秋田弁では「き」ではないんですね。なんとも表現しにくいです…。う〜ん、「き」と「くす」の中間でしょうか…。それとも「き」と「くす」を同時に発音しているのでしょうか。もう少し細かく説明しますと、口で「くす」と音に出して言わないで、口から「くす」と息を漏らしてみて下さい。そして「き」と言いながら、その息をもらした「くす」をその後に同時に発音する練習をしてみて下さい。田舎っぽい発音ができます。それです。それが秋田弁の「」なのです。どう表記すれば分からないので、秋田弁の「」は、「き」と書いて終わってしまっています。このあたりも一応理解しておいてください。

 次は、鼻濁音についてです。本来鼻濁音は日本全国にあったものらしいですが、東北以外の他の地方では少数派になってしまったみたいですね。発音にうるさいはずのアナウンサーでさえできない人が多いそうなので、もう過去の言葉なのでしょう。

 ちなみに、自分が鼻濁音を使っているかどうかというのは簡単にチェックできます。「東」「小学校」「着替え」を鼻をつまんで言ってみましょう。ある特定の方々には面白い現象が起こります。鼻がつまったようになります。もちろん私もそうなります。意識して鼻濁音じゃないように発音すればなんとか言えますが、特に「着替え」の「え」が口から出てきません。これらの単語を意識しないですんなり言える方は鼻濁音を使っていないことになりますし、意識して発音しないと言えない方は鼻濁音を使っていることになります。本来鼻濁音を使う発音が正しいのです。ですが、鼻濁音を話すことができない方が多数となった今では、どちらでもかまわないでしょう。この鼻濁音は、「ひがし」、「しょうがっこう」、「きがえ」を「ひか゜し」「しょうか゜っこう」、「きか゜え」と表記することで表現できます。ですが面倒なので、私はこう表記しませんのでご理解お願いします。(関連リンク声優演技研究所

 鯵ヶ沢スキー場(青森県)の「こっちが沢でもあっちが沢」と言っているCMを覚えている方はいらっしゃいますか?(東北のローカルCMかもしれません)お年をめした方に道を尋ねるとああなりますよ(笑)(だからといってお年をめした方に道を尋ねるな、と言っているのではありません。大いに尋ねましょう)日本語ではありますが標準語でない、独自の発音ですからね。

 04.05.20

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